コラム

2024/12/21 コラム

採用時に押さえるべき法律知識と実務ポイント

Q&A

ご質問

会社で新たに人を雇いたいけど、法律的な配慮は何が必要なの?

回答

労働条件の明示や差別禁止、外国人雇用のルールなど、知らないとトラブルになる法的ポイントがあります。

はじめに

本稿は、企業の採用・雇用に関する法的留意点を解説します。採用形態ごとの注意点、労働条件の明示義務、間接差別の防止、高齢者雇用安定法などの留意点、さらに外国人労働者雇用時の確認事項までご紹介します。

目次

  1. 採用形態別の特徴と注意点
  2. 労働条件明示義務と記載すべき事項
  3. 差別的取扱いと間接差別防止のポイント
  4. 外国人労働者の採用における注意点
  5. 高齢者雇用安定法・職業安定法への対応
  6. 退職時の留意点
  7. 弁護士に相談するメリット
  8. 採用時の総合的な流れとチェックリスト
  9. まとめ

 

1. 採用形態別の特徴と注意点

採用を考える際は、どのような形態で人材を確保するかを明確にする必要があります。正社員、契約社員、パート・アルバイト、派遣社員など、雇用形態によって法的な扱いや更新手続き、雇用安定性が異なります。

  • 正社員
    契約期間を設けずに雇用される社員であり、企業と強い結びつきを前提に長期的な人材確保が期待できます。技術や知識を長期にわたり蓄積してもらう場合は、正社員雇用が一般的です。
  • 契約社員
    雇用期間に定めを置き、一定期間ごとの更新や終了を前提とした雇用形態です。特定プロジェクトや一時的業務量増加への対応、専門技能者の短期的活用など、柔軟な人材確保に向いています。ただし、契約更新を繰り返すことで実質的に期間の定めがなくなる問題が生じることもあり、労働基準法や有期雇用契約に関するルールには注意が必要です。
  • パート・アルバイト
    正社員よりも短時間勤務を前提とする形態で、臨機応変な雇用対応が可能です。賃金・休暇・福利厚生は法令や就業規則、労使協定に基づいて整備する必要があります。
  • 派遣社員
    人材派遣会社と労働契約を結ぶ労働者を受け入れる形態です。派遣先は指揮命令権を有しますが、雇用契約は派遣元との間にあるため、派遣法や派遣期間に関する制限、均等・均衡待遇への配慮が必要です。

2. 労働条件明示義務と記載すべき事項

使用者(会社)は、採用時に労働者へ労働条件を明示しなければなりません。労働条件通知書の書面交付や労働契約書の締結によって、具体的な労働条件(給与・労働時間・休日休暇・割増賃金・退職手当・昇給・解雇条件など)を明確化します。

明示事項の例

  • 労働契約の期間
  •  就業場所・従事すべき業務内容
  •  勤務時間、休日、休暇、有給休暇の付与基準
  •  賃金の決定方法、締め日・支払日、支払方法
  • 退職・解雇に関する事項

これらを明示することで、後日のトラブル回避が期待できます。

3. 差別的取扱いと間接差別防止のポイント

労働者の募集・採用において、人種・性別・宗教などによる差別はもちろん禁止です。さらに、「結果として差別につながる条件(間接差別)」を付すことも問題視されます。

  • 間接差別の例
    例えば、身長や体重といった身体的条件、転勤可能性を前提とした採用条件、過去の転職経験の有無を昇進の要件にするなど、一見すると中立的な要件でも、特定属性の集団に不利益が及ぶ場合は「間接差別」と判断される可能性があります。
  • 合理的理由があれば条件付与も可能
    ただし、業務遂行上どうしても必要な能力や要件である場合は合理性が認められることがあります。たとえば、重い荷物を扱う業務で一定の体力が必須の場合、その体力要件を明示すること自体は必ずしも差別とはなりません。

4. 外国人労働者の採用における注意点

外国人労働者を採用する場合、その在留資格や就労可能な在留区分を確認することが不可欠です。留学、技能実習、特定技能、永住者、日本人の配偶者等、定住者など、在留資格によって就労の可否・範囲が異なります。

  • 在留資格確認のポイント
    外国人労働者には在留カードが発行され、有効期間や就労範囲が明記されています。カードが有効期限切れ、または無資格滞在状態では採用できません。必ず採用前に在留資格を確認してください。
  • 適正な労働条件の確保
    外国人労働者にも日本人同様、適正な労働条件を提示しなければなりません。特に外国人労働者に不利な条件を一方的に強いるようなことは、労働基準法が禁止する差別的待遇に当たる可能性があります。

5. 高齢者雇用安定法・職業安定法への対応

高齢化社会を背景として、高齢者の雇用安定が重視されています。かつては60歳定年が一般的でしたが、現在では65歳までの雇用確保措置(定年延長や継続雇用制度)を講じることが義務付けられるケースが増えています。

  • 求人数制限の明示的理由
    高年齢者雇用安定法等により、65歳未満で採用年齢を制限する場合には合理的理由の明示が求められています。高齢者雇用に配慮することで、多様な人材を活用し、組織活力を向上させることが期待できます。
  • 職業安定法の明示義務
    労働条件や契約期間、業務内容等を文書で明示することが求められ、曖昧な条件での採用は避けるべきです。

6. 退職時の留意点

労働基準法では、会社の都合で一方的に賃金を減額することを厳しく制限しています。退職時に労働者に対して不利な制裁金や、資格取得費用の返還を求める場合にも注意が必要です。

  • 全額払原則
    賃金は全額を支払うことが原則です。会社が負担した資格取得費用を、短期間で退職する労働者に対して請求したい場合、事前に就業規則や雇用契約書で「一定期間未満で退職した場合、資格取得費用を弁済する」旨を定め、別途精算手続を踏むなどの対応が望まれます。
  • 過度なペナルティはNG
    法的に許容される範囲は限定的で、過度な制裁は無効となる可能性があります。弁護士に相談して適正な規定を設けることでトラブル回避が可能です。

7. 弁護士に相談するメリット

採用から労働契約締結、在職中のトラブル対応、退職時の条件交渉まで、労働法務は複雑な領域です。弁護士に相談することには以下のような利点があります。

  • 最新法改正への対応
    労働法は頻繁に改正されます。弁護士は最新動向を把握しているため、常に現行法に適合したアドバイスが受けられます。
  • 就業規則・契約書類の適正化
    弁護士に依頼すれば、労働条件通知書や雇用契約書、就業規則、派遣契約、外国人雇用時の書類などを法的に有効かつリスクの少ない形に整えることができます。
  • 紛争予防とリスク回避
    不明確な労働条件や違法な慣行は後に大きな紛争を生む可能性があります。弁護士の予防的なアドバイスを受けることで、企業は無用なリスクを回避し、安定した労務管理を行えます。
  • 経営判断へのサポート
    労働法的リスクは企業経営に直結します。法的リスクを事前に把握し、的確な意思決定を行うための法的サポートは、企業にとって大きなメリットとなります。

8. 採用時の総合的な流れとチェックリスト

採用活動を円滑に行うためには、以下の流れとチェックポイントを押さえておくと有効です。

  1. 採用計画の立案
    どのような人材をどの雇用形態で確保するか、コストや募集期間を踏まえ、計画を策定します。
  2. 求人票・募集要項の作成
    労働条件を明示し、差別的条件がないかチェックします。外国人労働者の採用を検討する場合には在留資格確認方法も明記しましょう。
  3. 応募者選考
    適正な面接・テストを実施し、間接差別に該当しないよう注意します。
  4. 採用内定・契約締結
    労働条件通知書・契約書を発行し、明確かつ公正な条件で合意します。
  5. 入社手続き
    社会保険手続きや就業規則の交付・説明、健康診断などを行います。
  6. 入社後のフォロー
    定期的な面談や研修、トラブル防止策を講じ、長期的な戦力化を図ります。

9. まとめ

採用活動は企業の成長や組織風土の形成に直結し、その一方で法的リスクも内在しています。本ガイドで紹介した労働条件の明示義務、間接差別の防止、高齢者雇用安定法への対応、外国人労働者雇用時の在留資格確認など、基本的なポイントを押さえることで、法的トラブルを避け、健全な雇用関係を築くことが可能となります。さらに、弁護士への相談によって、より戦略的かつ安全な採用活動が実現することが期待できます。

 


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