2024/12/15 コラム
作業現場での振動・騒音による健康被害を防ぐための実践ガイド
はじめに
本ガイドは、振動工具や騒音発生機器を使用する現場に向けた解説です。チェーンソー等の個別事例や、振動障害・騒音障害防止のための具体的な対策、関連法規制やガイドライン、健康診断や記録保存義務などを整理しています。
振動障害・騒音障害とは何か
現場で用いられるチェーンソーやコンクリートブレーカー、エンジンカッターなどは強い振動や騒音を発生します。これらが長時間、労働者の手や腕、耳・聴力に影響すると、振動障害(血行障害や神経・筋肉への悪影響)や騒音障害(騒音性難聴など)が生じ、健康被害が発生し得ます。
振動障害は、振動工具による連続した身体負荷により血行不良を引き起こし、手指のしびれや痛み、さらには持続的な感覚麻痺に至る場合があります。騒音障害は、適切な耳栓や防音措置がないまま過大な音圧に晒されることで、聴力低下を生じる可能性があります。
チェーンソーをはじめとする振動工具に関するガイドライン
かつてはチェーンソー使用時の振動対策が課題となっており、厚生労働省は「チェーンソー取扱い作業指針」(平成21年7月10日)を策定しました。この指針では、以下のようなポイントを示しています。
- 工具の選定基準:振動の抑制構造が施された機種、軽量で操作しやすいチェーンソーを選ぶこと。
- 点検・整備:定期的な点検整備を行い、常に良好な状態を維持する。
- 管理責任者の選任:振動工具管理責任者を選び、点検や整備、作業者への教育などが円滑に行われるようにする。
- 使用方法と作業時間管理:適切な使用方法を守り、振動曝露時間を可能な限り抑制する。週単位での振動負荷量の評価や、必要に応じた休息日(チェーンソーを扱わない日)を設けることも推奨されます。
チェーンソー以外の振動工具にも及ぶ規定と対策
チェーンソー以外の振動工具(チッピングハンマー、エンジンカッター、コンクリートブレーカーなど)についても、「チェーンソー以外の振動工具取扱い業務に係る振動障害防止対策指針」(平成21年7月10日)が定められています。この指針は、チェーンソー指針と基本的な考え方を共有しつつ、対象作業範囲や使用工具の選定基準、空気圧縮系統の改善、定期健診の実施、適切な運搬方法(無理な運転を避ける)など、より幅広い工具や作業条件に適用できるようになっています。
騒音障害防止のガイドラインと法的義務
事業者は「騒音障害防止のためのガイドライン」(令和5年4月改訂)に基づき、必要な措置を講じる義務があります。具体的には、コンクリートブレーカーやインパクトレンチなど騒音発生源となる機器を用いる作業について、
- 作業環境の騒音レベルを測定・評価
- 騒音低減機器の導入
- 必要に応じた耳栓等の使用
- 定期的な労働衛生教育の実施
- 健康診断とその結果の記録保存(5年間)
などが求められます。
騒音レベルは「85デシベル未満」「85デシベル以上90デシベル未満」「90デシベル以上」の3区分で評価され、騒音レベルに応じて作業環境改善や保護具着用が不可欠となります。
工具の選定と点検整備によるリスク低減
振動・騒音被害を防ぐ第一歩は、適切な工具選定です。振動対策が施された内蔵緩衝機構付きの工具や、より軽量で操作性の高い機種を選ぶことで、労働者への負担を軽減できます。
また、工具は定期点検・整備を怠らないことが重要です。刃先が鈍ったチェーンソーのチェーンを研ぎ直し、劣化した部品は交換し、常に良好な状態を維持することで、振動・騒音レベルを抑えることが可能になります。
作業時間管理と振動暴露量の評価方法
適切な作業時間管理は健康被害防止に有効です。例えば、1週間単位で振動曝露時間を平準化する、チェーンソーを使用しない休息日を設けるなどの対策が挙げられます。また、特殊な計測方式で1日あたり、あるいは週単位での手腕への振動曝露量を見積もり、その評価結果に基づき必要な低減策(工具の改良、作業方法の改善など)を検討します。
防護具の使用・作業姿勢・体操など物理的対策
騒音障害防止には耳栓やイヤーマフの使用が一般的です。また、振動障害防止には防振手袋、保温性の高い手袋、適切な作業姿勢などが有効です。日々の作業前後には簡単な体操を行い、血行を促進することが推奨されます。また、移動方法を工夫する(オートバイなどを避ける)ことで、さらなる振動リスクを回避できます。
健康診断の実施・記録保持・改善策の実行
労働安全衛生規則により、事業者は騒音や振動関連の作業環境に従事する労働者に対し定期的な健康診断を行い、その結果を5年間保存する義務があります。健康診断で異常が見つかった場合は、直ちに都道府県労働局長へ通知し、再発防止策や作業環境改善措置を講じなければなりません。
弁護士に相談するメリット
法律やガイドラインに沿った安全対策を講じない場合、労働問題や行政処分、さらには損害賠償請求に発展する可能性があります。弁護士に相談することで、以下のようなメリットが得られます。
- 法的リスクの明確化
弁護士は関連法令や判例を踏まえ、現場で求められる義務や責任範囲を明確にします。 - 予防的コンプライアンス
違反リスクを事前に把握し、ガイドラインに沿った社内規程整備や教育システム構築が可能になります。 - 労働者・事業者双方の信頼関係構築
適切な法的対応により労働者の安全が守られれば、社内全体の信頼性や職場環境が改善されます。 - トラブル発生時の迅速対応
万一、健康被害や行政指導などが生じた場合でも、早期対応により被害拡大を防止し、適正な解決が図れます。
まとめ
本ガイドでは、振動障害・騒音障害に関する基本的な概念、チェーンソーやその他振動工具に関するガイドライン、騒音対策における義務や測定方法、作業時間管理、選任責任者の配置、適切な点検・整備、健康診断実施と記録義務、そしてそれらに関連する法的リスク軽減のための弁護士相談のメリットなどをご紹介しました。
現場での実践は、道具や作業工程、教育プログラム、法的対応を含む総合的な取り組みです。法令遵守と安全確保が企業経営の持続可能性を高め、労働者の健康と職場の信頼性を維持します。本ガイドを参考に、現場ごとに創意工夫を凝らし、より安全で快適な労働環境を整える契機となれば幸いです。
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