2026/02/28 コラム
公共工事請負契約と宅建業法の関係とは?建設業者の兼業リスクと許可の使い分けを弁護士が解説
はじめに
建設業者にとって、「公共工事の受注」と「不動産事業(宅建業)への進出」は、どちらも経営を安定させるための重要な柱です。しかし、この二つの事業は、それぞれ「建設業法」と「宅地建物取引業法(宅建業法)」という全く異なる法律によって規制されており、その違いを正しく理解していないと、知らぬ間に法令違反(無許可営業など)を犯してしまうリスクがあります。
「建設業の許可を持っているから、自社で建てた家を土地付きで売っても問題ないだろう」
こうした誤解は、営業停止処分や公共工事の指名停止、さらには刑事罰につながる重大な問題です。
本記事では、公共工事(請負契約)と宅建業(売買契約)の法的な違い、建設業者が宅建業を兼業する際の注意点について解説します。
公共工事と宅建業法に関するQ&A
Q1. 建設業許可を持っています。自社で土地を仕入れ、そこに建物を建てて販売する「建売住宅」事業を始めたいのですが、別途「宅建業免許」は必要ですか?
はい、「宅建業免許」が必要です。建設業許可だけでは、自社物件の「販売(売買)」はできません。
建設業許可はあくまで「工事の請負(工事を完成させること)」を許可するものであり、不動産の「売買」や「仲介」を行う権限はありません。
自社で施工した建物であっても、それを土地とセットで不特定多数の顧客に反復継続して販売する行為は、宅地建物取引業法上の「宅地建物取引業」に該当します。したがって、この場合は建設業許可に加えて、宅建業免許(知事免許または大臣免許)を取得しなければなりません。無免許で行うと、宅建業法違反(無免許運転)となります。
Q2. 公共工事の入札において、宅建業の免許を持っていることは有利になりますか?
入札の評価点に直接加点されることは一般的ではありませんが、経営の安定化や事業戦略上は有利に働くことがあります。
公共工事の入札参加資格審査において、宅建業免許の有無が直接的な加点対象(主観点)になるわけではありません。公共工事は純粋な「請負契約」であり、不動産取引の能力は直接関係しないからです。
しかし、宅建業を兼業することで、土地探しからの建築受注(建築条件付き土地販売など)が可能になり、民間工事の受注経路が増えることで経営基盤が強化されます。結果として、経営事項審査(経審)の評点(経営状況Y点など)に良い影響を与える可能性はあります。
Q3. 建設業の「専任技術者」と、宅建業の「専任の宅地建物取引士」は、同一人物が兼任することはできますか?
原則として兼任は難しいですが、同一法人・同一営業所内であり、かつ常勤性が確保できる場合に限り認められることがあります。
建設業法上の「専任技術者」と、宅建業法上の「専任の宅地建物取引士」は、どちらも「営業所に常勤して専らその業務に従事すること」が求められます(専任性)。
そのため、物理的に異なる営業所での兼任や、業務量が過大で職務を全うできない場合の兼任は認められません。ただし、同一の営業所で、かつ同一の法人が兼業する場合など、行政庁が個別に認めるケースもあります。管轄の都道府県の窓口(土木事務所や建築課など)へ事前の確認をしましょう。
解説
公共工事(請負)と宅建業(売買)の法的境界線と実務
建設業者が事業を拡大する際、最も混同しやすいのが「請負契約」と「売買契約」の違いです。ここでは、公共工事を典型とする請負契約と、宅建業法が適用される取引の違い、および兼業時のリスク管理について解説します。
1. 「請負」と「売買」の違い
法律上、建設工事と不動産取引は明確に区別されます。
公共工事=「請負契約」(建設業法)
公共工事は、発注者(国や自治体)が用意した土地や既存施設に対して、受注者(建設業者)が工事を行い、成果物を完成させることを目的とします。
- 適用法: 民法(請負)、建設業法
- 特徴: 「仕事の完成」に対して報酬が支払われる。土地の権利移転は伴わない。
不動産販売=「売買契約」(宅建業法)
建売住宅や分譲マンションの販売は、完成した(または完成予定の)土地・建物の所有権を移転することを目的とします。
- 適用法: 民法(売買)、宅地建物取引業法
- 特徴: 「財産権の移転」に対して代金が支払われる。
建設業者が陥りやすいミスは、「自分で作ったものを売るのだから、建設業の延長だろう」と考えてしまうことです。しかし、「作る(施工)」行為と「売る(販売)」行為は、法的には別個の許可・免許が必要な行為です。
2. 建設業者が宅建業法に関わる3つのパターン
建設業者が宅建業法を意識すべきなのは、主に以下のケースです。
① 建売分譲事業(売主)
自社で土地を仕入れ、建物を建築して販売するケース。
- 必要な許認可: 建設業許可(建築工事) + 宅建業免許
- 注意点: 宅建業法上の「重要事項説明」や「契約不適合責任(2年以上)」、「手付金の保全措置」などの義務が発生します。
② 建築条件付き土地販売(売主または代理)
「土地は売りますが、建物は当社で建ててください」という契約形態。
- 必要な許認可: 建設業許可(建築請負) + 宅建業免許(土地販売)
- 注意点: 土地の売買契約から一定期間(通常3ヶ月)以内に建築請負契約が成立しない場合、土地契約を白紙解除するという特約が必要です。このルールを守らないと宅建業法違反(停止条件の不成就)となります。
③ 土地仲介からの建築受注
顧客の土地探しを手伝い(仲介)、その土地に注文住宅を建てるケース。
- 必要な許認可: 建設業許可(建築請負) + 宅建業免許(土地仲介)
- 注意点: 仲介手数料(報酬)を受け取るには宅建業免許が必須です。免許なしで反復して土地を紹介し、謝礼を受け取ると無免許営業になります。
3. 事務所の「独立性」要件
建設業と宅建業を同じオフィスで行う場合、それぞれの業法で求められる「事務所の独立性」を確保する必要があります。
- 入り口と動線: 原則として、それぞれの事務所としての機能が独立していること。
- 固定式パーティション: 同一フロアにある場合、高さ170cm以上の固定式パーティションなどで明確に区画されていること。
- 標識の掲示: 「建設業の許可票」と「宅地建物取引業者票」をそれぞれの見やすい場所に掲示すること。
これらが守られていない場合、宅建業免許の更新時や、建設業許可の調査時に指摘を受け、是正を求められることがあります。
弁護士に相談するメリット
建設業と宅建業、二つの業法が絡む分野は法的判断が複雑です。弁護士に相談することで、以下のメリットが得られます。
1. 新規事業のリスク診断とスキーム構築
これから不動産事業を始める際、どのような契約形態(請負か売買か、建築条件付きか)が最適か、法的なリスクはないかを診断します。特に、宅建業法特有の厳しい消費者保護規制(クーリングオフ、手付金保全など)への対応策を構築できます。
2. 契約書のリーガルチェックと使い分け
「工事請負契約書」と「不動産売買契約書」は全く別物です。誤ったひな形を使用すると、トラブル発生時に不利になるだけでなく、印紙税の過誤納付などの問題も生じます。弁護士が適切な契約書を作成・レビューします。
3. トラブル発生時の対応
「建築した家で雨漏りがした(品確法・契約不適合責任)」、「土地の境界で揉めている(民法・不動産登記法)」といった複合的なトラブルに対し、建設・不動産の両面に精通した弁護士が解決に当たります。
まとめ
公共工事請負契約と宅建業法の関係について、重要なポイントは以下の通りです。
- 法の適用が違う: 公共工事は「請負(建設業法)」、不動産販売は「売買(宅建業法)」。これを混同しない。
- 免許の要否: 自社施工でも、土地付きで販売するなら「宅建業免許」が必須。
- 兼業のルール: 事務所の区分けや専任担当者の配置など、両方の業法の要件を満たす必要がある。
建設業者が不動産分野へ進出することは、事業拡大の大きなチャンスですが、同時にコンプライアンス上のハードルも上がります。
「知らなかった」では済まされない重い処分を避けるためにも、兼業や契約形態について不安がある場合は、弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。
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