コラム

2024/12/16 コラム

労働災害や健康被害を未然に防ぐために:事業者がとるべき実践的対策と法的ポイント

Q&A

Q: なぜ事業者は労働者の安全・健康を守るための対策が必要なのでしょうか?

A: 労働者が安心して働ける環境を整えることは、企業の社会的責任であり、法的義務でもあります。適切な安全対策や健康管理の仕組みを構築することで、労働災害や健康障害を防ぎ、生産性・信頼性の向上にもつながります。

Q: 法律にはどのような定めがあるのでしょうか?

A: 日本の労働安全衛生法をはじめとする関連法令では、事業者に対し、危険防止・健康被害防止のための多くの措置を義務付けています。具体的には、原材料や作業方法による危険の除去、騒音や振動、粉じんなど有害要因の管理、災害発生時の対応計画などが求められます。

Q: こうした対応は具体的に何から手を付ければよいのでしょうか?

A: まずは、発生しうる危険や健康障害の可能性を事前に洗い出し、それらを予防・軽減する措置を整え、労働者にも周知することが基本です。労働者が安全に働くための教育・訓練、作業場の改善、保護具の使用徹底など、段階的かつ包括的に取り組むことが求められます。

1.危険・健康被害防止の基本的な考え方

事業者は、労働者が安心して業務に専念できる職場環境を整える責務があります。その背景として、トラブルや労働災害、健康障害は一度発生すると、労働者の安全のみならず、企業の信用や生産性にも大きなダメージを与えることが挙げられます。

労働安全衛生法では、危険有害要因を特定し、その発生を未然に防ぐための「措置」を求めています。これらの措置は、大きく以下のような観点から整理できます。

  • 危険防止対策
    機械や爆発物、電気・熱源、引火性物質などから生じる直接的な危険を取り除く。また、掘削作業や採石、墜落のリスクなど、作業方法そのものが内在する危険を抑える。
  • 健康障害防止対策
    原材料(粉じん、ガス、有害物質)、放射線、高温・低温、騒音や振動、酸素欠乏、異常気圧など、環境から生じる健康被害を防ぐ。

これらは法律上の条文で細かく規定されており、事業者はそれぞれの業務内容や現場状況に合わせて、具体的な安全対策を講じなければなりません。

2.発生しうる危険・有害要因の例と対策アプローチ

具体的な危険や有害因子の例はこちらです。これらの対策は、あくまで例であり、実際には各事業所の実情を踏まえてカスタマイズする必要があります。

機械・エネルギー由来の危険防止

  • 事例:大型プレス機の挟まれ事故、引火性ガスによる爆発、電気設備の感電など
  • 対策:緊急停止装置やインターロック(安全装置)の設置、防爆構造の採用、定期的な点検整備、感電防止カバーの導入、安全教育の徹底など

作業方法による危険防止

  • 事例:高所作業での墜落、掘削現場での土砂崩れ、重量物取り扱い中の転倒
  • 対策:安全帯やヘルメットなどの保護具着用、足場の設置や補強、適切な運搬方法の指導と訓練、危険作業には複数人での対応など

原材料・環境要因による健康障害防止

  • 事例:粉じん吸入による呼吸器障害、有機溶剤による中毒、高温下での熱中症
  • 対策:局所排気装置や換気の強化、防毒マスク・防護メガネの使用、作業時間の短縮やローテーションによる負担軽減、水分補給や休憩時間の確保

放射線・温度・圧力・騒音・振動など特殊環境対策

  • 事例:超音波や騒音職場での聴力障害、低温倉庫内での低体温症、加圧室内での高気圧障害
  • 対策:騒音低減装置や耳栓、防寒着や保温空調、圧力環境下での段階的な慣らし作業、適切な防護服・装備の配備

衛生管理や清掃の重要性

  • 事例:換気不足での室内汚染、湿度過多によるカビ発生
  • 対策:定期的な清掃・整備、換気装置の定期点検・交換、湿度・温度管理システムの導入、衛生マニュアルの策定と周知

3.労働者に対する教育・作業環境整備のポイント

事業者は、単に危険要因を減らすだけでなく、それを労働者に理解してもらうための教育や、適切な作業手順を共有することが不可欠です。また、十分な休憩や快適な作業環境(照明、通路の確保、換気、室温管理、休憩スペースの提供など)を整えることで、健康障害やストレスの低減が可能になります。

  • 労働者教育:新規入場者教育、安全衛生講習、定期的な安全ミーティング
  • 作業環境整備:通路確保、床面の滑り止め、空調・換気、十分な照明、防音・防振対策、清潔な休憩室
  • 保護具の使用徹底:安全靴、ヘルメット、防塵マスク、ゴーグル、手袋などの定期的な点検と正しい使用方法の周知

4.災害発生時の対応計画・作業中止措置

万が一、労働災害や突発的な健康障害が発生した場合、事業者は直ちに適切な対応をとらなければなりません。

  • 緊急時対応計画:救護体制の確立、応急処置キットの常備、緊急連絡網の確保
  • 作業中止措置:重大な危険が発生または迫っている場合、速やかに作業を中断し、労働者を安全な場所へ退避させる
  • 再発防止策の検討:事故発生後は原因を分析し、再発防止のための手順改善や追加的な安全対策を講じる

5.法的義務と労働者の協力義務

労働安全衛生法は、事業者が講ずべき措置を細かく規定しています。また、労働者にも、事業者が講じる安全衛生対策に協力する義務が課されています。

  • 事業者の義務:法律に基づく安全装置の設置、定期的な点検、労働者への教育、安全衛生管理体制の整備
  • 労働者の協力義務:指示された安全衛生措置に従い、保護具を正しく使用し、安全ルールを守ること

こうした相互協力によって、職場の安全と健康が確保され、結果的に生産性や企業イメージの向上につながります。

6.弁護士に相談するメリット

事業者が安全衛生対策を進める上で、法律に適合した措置ができているか、あるいは万一のトラブル発生時に適切な対応が取れるかどうかは大きな課題です。ここで、弁護士に相談することのメリットを紹介します。

  • 法的リスクの事前把握
    弁護士は労働安全衛生関連法規に精通しているため、事前に必要な措置を特定し、違反リスクを軽減できます。
  • 社内ルールの整備サポート
    就業規則や安全衛生規程、マニュアル整備など、法令との整合性を保つためのアドバイスを受けられます。
  • 万一のトラブル対応
    労働災害や健康被害が発生した場合、被害者対応、行政当局への届出、再発防止策の法的観点での検討など、専門的なサポートが期待できます。
  • コンプライアンス経営の強化
    外部専門家の意見を参考にすることで、社内コンプライアンス意識を高め、安全確保と法令順守による企業価値向上が実現します。

7.リスク対策の再検討

ここまで述べてきた内容は、法律や一般的なガイドラインに基づくものですが、各現場ごとに特有の事情が存在します。そのため、決まりきった手順や形式にとらわれず、水平方向に発想を広げることが重要です。

  • 他業種の事例を参考にする
    自社に直接関連しない業種の安全対策や発想を導入することで、新たなリスク低減策が見つかる可能性があります。
  • 技術革新への対応
    AIによる危険予知システムやIoT機器を用いた作業環境モニタリングなど、最新技術を取り入れることで、リスク低減策を進化させることができます。
  • 外部専門家・コンサルタントの活用
    安全衛生の専門家や学識経験者、法務や労務のプロフェッショナルとの定期的な意見交換も有益です。

水平思考によって、安全対策は常にアップデート可能であり、現場のニーズや法令改正にも柔軟に対応できます。

9.まとめ

本稿では、事業者が遵守すべき安全衛生対策を解説し、法的義務から実務的なポイント、労働者教育、緊急時対応、弁護士に相談するメリットまでをご紹介しました。

職場の安全と健康は、日々の地道な取り組みと改善の積み重ねによって実現されます。

法令をただ守るだけでなく、水平思考を取り入れて積極的な改善や他業種の知見活用、外部専門家のサポートを受けることで、より確かな安全衛生管理体制を構築することが可能です。

これらの努力は、労働者の安心・安全、企業の信頼性向上、ひいては持続的な成長にもつながります。弁護士法人長瀬総合法律事務所は、こうした取り組みをサポートしてまいります。

 


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