2024/12/14 コラム
酸素欠乏・粉じんリスクと作業環境測定のポイント
Q&A
Q: なぜ職場で酸素欠乏や粉じん濃度の測定が必要なのでしょうか?
A: 作業環境における酸素不足や有害な粉じんは、労働者の健康被害を引き起こす深刻なリスクとなります。法規制は、こうしたリスクを避け、安全な労働環境を確保するため、事業者に適切な測定・対策を求めています。
Q: 法律で何が定められているのですか?
A: 労働安全衛生法や関連法令では、酸素欠乏危険作業や有害粉じんが発生する作業環境について、定期的な測定や記録、管理区分の判定、対策の実施が義務付けられています。また、事業者は必要に応じて技術講習を修了した専任者を配置し、改善措置や保護具の使用を徹底する必要があります。
Q: 弁護士に相談する必要はあるのでしょうか?
A: 職場環境の安全対策や法令遵守は、事業活動を円滑かつ安全に進める上で不可欠です。しかし、法規制は複雑で、違反時には責任追及やトラブルが生じます。弁護士へ相談することで、リスク回避策の検討や就業規則整備、万が一の紛争時の対応など、法的な後ろ盾を得ることができます。
1.なぜ「酸素欠乏」や「粉じん」の測定が重要なのか
労働者が健康かつ安全に働くためには、作業環境が適切に管理されていることが大切です。特に、狭く密閉された空間や地下室、倉庫、マンホール内部、井戸内などでは、酸素濃度が低下しやすく、酸素欠乏症を引き起こす危険があります。また、土石、岩石、鉱物、金属、炭素質の原料や建材(代表例としてアスベスト)などを扱う現場では、発生する粉じんが呼吸器系へ重大な悪影響を及ぼすことが知られています。
ポイント
- 酸素欠乏状態(空気中酸素濃度18%未満)は重篤な脳機能障害や細胞破壊を引き起こし、生命を脅かします。
- 粉じんは、長期的な吸入により肺疾患や呼吸器障害を誘発し、労働者の健康に深刻な影響を及ぼします。
2.法制度と事業者の義務
労働安全衛生法などによって、一定の危険作業(酸素欠乏や有害粉じん作業)では、作業環境測定が義務付けられています。さらに、関連する政省令や「作業環境測定基準」では、測定方法、測定機器、測定場所、測定頻度など、具体的な基準が定められています。
また、事業者には「酸素欠乏症等防止規則」や「粉じん障害防止規則」の遵守が課されており、空気中酸素濃度測定や粉じん濃度測定の実施、結果の記録・保存、換気や保護具の使用、異常時の連絡体制確立、監視体制、緊急退避計画などを策定することが求められています。
3.測定における具体的な流れ
酸素欠乏危険作業の場合
- 作業開始前に酸素濃度を測定する
- 測定結果は記録し、必要に応じて作業員全員に周知する
- 酸素不足と判定されれば、換気や酸素供給、作業方法改善などの対策を講じる
- 酸素欠乏作業主任者(有資格者)を任命し、定期的な点検や改善を行う
粉じん作業の場合
- 作業場の空気中粉じん濃度を定期的に測定
- 測定は原則として6か月に1回、定期的に実施
- 測定結果に基づき、作業場を「第一管理区分」「第二管理区分」「第三管理区分」に区分
- 管理区分が悪い(第三管理区分)の場合は、直ちに設備改善・換気強化・保護具強化などの措置を行い、改善後の再測定でより良い管理区分へ引き上げる
4.測定結果の記録と報告・保存
測定を行った場合、その日時、方法、範囲、条件、結果、実施者名を記録した報告書を作成し、少なくとも7年間は保存する必要があります。この長期保存は、後日トラブル発生時や労働基準監督署による調査に備える意味で重要です。記録は透明性を確保し、いつでも提示・確認できるよう整備されるべきです。
5.管理区分とは何か?
管理区分とは、作業環境を測定結果に基づいて評価し、その状態に応じてランク付けする仕組みです。
- 第一管理区分: 良好な状態で、特別な改善措置が不要なレベル
- 第二管理区分: 改善が望まれる中間的レベル
- 第三管理区分: 直ちに改善が必要な危険レベル
もし作業場が第三管理区分に該当する場合、事業者は速やかに設備や換気装置の改善、作業方法の見直し、保護具の追加使用などの措置を行わねばなりません。改善措置後は再測定を行い、なるべく第一管理区分に近づける努力が求められます。
6.保護具の使用義務
「粉じん障害防止規則」では、一定の粉じん作業を行う場合、労働者に有効な呼吸用保護具(防じんマスク、送気マスク等)の着用を義務付けています。特に、掘削を伴う場所や、どうしても粉じんが発生してしまう作業環境では、労働者が電動ファン付き呼吸用保護具を使用する必要があります。
また、酸素欠乏の恐れがある現場では、送気マスクなど適切な保護具を用いることで、労働者の健康被害を防止できます。保護具選択の際には、対象とする粉じんの種類や酸素欠乏リスクの程度を考慮し、労働衛生専門家や弁護士などの助言を得ることが望まれます。
7.弁護士に相談するメリット
安全衛生関連法規は複雑で、違反した場合には労働局や労働基準監督署からの指導・勧告、さらには罰則が科される可能性があります。
弁護士に相談するメリット
- 法的リスクの最小化
安全衛生法令の解釈や最新の法改正動向を踏まえ、適切な対策をアドバイスしてもらうことで、罰則やトラブル発生のリスクを低減できます。 - 就業規則・安全衛生規程の整備
弁護士は、現場の実態を踏まえた上で、就業規則や社内規定に法的根拠を与え、リスクに対処するルール整備をサポートします。 - 紛争対応
労働者とのトラブルや行政機関からの指摘に直面した際、弁護士は交渉代理人やアドバイザーとして、スムーズな問題解決に役立ちます。 - 予防法務
問題が起きる前に専門家の知見を活用しておくことで、無用なコストや信用失墜を避けることができます。
8.法令遵守への道筋と改善プロセス
- 現状調査
まず、作業環境の実態を把握します。酸素濃度や粉じん濃度の測定結果を踏まえ、リスク箇所を洗い出します。 - 評価・分類
測定結果に基づき、作業環境を管理区分に分類します。問題があれば、原因を探り、改善策を検討します。 - 改善措置
必要に応じて、換気設備の導入、作業方法の見直し、防じんマスク・送気マスクの配備など、具体的な対策を講じます。 - 再測定とフォローアップ
改善後、再度測定を行い、改善措置の有効性を確認します。管理区分が改善されていれば、継続的な監視体制を構築します。
9.水平思考による実践的アプローチ
「水平思考」とは、固定観念にとらわれず、多様な観点から問題解決策を模索する考え方です。作業環境改善にも水平思考を取り入れることで、単なる法令遵守にとどまらず、労働者のモチベーション向上や生産性アップといった副次的効果も得ることが期待できます。
例
- 設備投資だけが対策ではない
法定基準を満たすために、高額な機器導入ばかりに注目せず、作業員への教育・訓練や勤務シフトの再考など、人的・組織的な改善策も考えられます。 - 専門家連携
弁護士以外にも労働衛生コンサルタントや産業医と協力することで、法的、医療的、実務的観点から多面的な対策が可能になります。
10.まとめ
本稿では、酸素欠乏や粉じん濃度が問題となる作業環境で求められる測定・管理措置について、分かりやすい表現で解説しました。ポイントは以下の通りです。
- 酸素欠乏や粉じんは、労働者の健康を深刻に脅かすリスクがあり、法規制上も対策が義務付けられている。
- 定期的な測定、記録、保存、分析、管理区分の判定、改善措置の実施が求められる。
- 弁護士に相談することで、法令遵守の確実性が増し、トラブル回避や労働者との信頼関係強化にもつながる。
法制度を順守し、常に改善を目指すことで、安全かつ生産性の高い職場環境が実現できます。
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