コラム

2026/03/17 コラム

建設業の労働時間管理と残業代トラブル|2024年問題・移動時間・固定残業代の法的対策

はじめに

建設業界は長らく、長時間労働が常態化しやすい環境にありました。工期の厳守、天候によるスケジュールの変更、そして慢性的な人手不足などがその要因です。しかし、202441日より、建設業にも「時間外労働の上限規制」が罰則付きで完全適用され、従来の働き方は法的に許容されなくなりました。

いわゆる「2024年問題」への対応は、単に法令を遵守するというコンプライアンスの問題にとどまらず、若手人材の確保や定着のためにも避けて通れない経営課題です。

一方で、現場への移動時間や着替えの時間など、建設業特有の「労働時間の境界線」に関する認識のズレから、未払い残業代を巡るトラブルも急増しています。

本記事では、建設業の経営者や労務担当者の方々に向けて、最新の法規制に基づく労働時間管理のポイント、残業代トラブルの予防策について解説します。

Q&A

建設業の労働時間・残業代に関するよくある疑問

Q1. 事務所から現場への「移動時間」は労働時間に含まれますか?

会社の指揮命令下にある場合は「労働時間」とみなされる可能性が高いです。

例えば、「朝、一旦事務所に集合し、乗り合わせて現場へ向かう」ことが義務付けられている場合や、「移動中に資材の運搬を行っている」場合は、その移動時間は労働時間(業務時間)と判断されることがあります。

一方、自宅から現場へ直行直帰する場合で、移動手段や経路が自由であるならば、原則として通勤時間扱いとなり、労働時間には含まれない傾向にあります。

Q2. 「固定残業代(みなし残業代)」を払っているので、追加の残業代は不要ですよね?

いいえ、固定残業代を超えた分は、別途支払う必要があります。

固定残業代制度は、「何時間働いても定額でよい」という制度ではありません。あらかじめ定めた時間(例:月40時間分)を超えて残業をした場合は、その超過分の差額を支払う義務があります。また、そもそも契約書などで「基本給」と「固定残業代」が明確に区分されていない場合、制度自体が無効とされ、固定残業代も含めて基本給の一部とみなされ、莫大な未払い残業代が発生するリスクがあります。

Q3. 20244月から、具体的にどれくらい残業ができなくなったのですか?

原則として「月45時間・年360時間」が上限となります。

臨時的な特別の事情があり、労使協定(36協定の特別条項)を結んだ場合でも、以下の制限(罰則付き)を守る必要があります。

  • 年間の時間外労働は720時間以内
  • 時間外労働と休日労働の合計が100時間未満
  • 時間外労働と休日労働の合計が26ヶ月平均で80時間以内
  • 45時間を超えられるのは6回まで

これらに違反すると、6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があります。

解説

建設業における労働時間管理の法的ポイント

1. 2024年4月施行「時間外労働の上限規制」の適用

これまでは猶予されていた建設業ですが、現在は一般企業と同様の上限規制が適用されています。特に注意すべきは「休日労働」の扱いです。

  • 「月100時間未満」「26ヶ月平均80時間以内」の要件には、休日労働の時間も含まれます。
  • したがって、平日の残業を抑えても、土曜・日曜に出勤させすぎると、この上限に抵触する恐れがあります。

ただし、災害時の復旧・復興事業に関しては、特例として「月100時間未満」「26ヶ月平均80時間以内」の規制は適用されません(年720時間などの規制は適用されます)。

2. 建設現場特有の「労働時間」の境界線

残業代請求訴訟において最大の争点となるのが、「どこからどこまでが労働時間か」という点です。裁判例では、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を労働時間と定義しています。

1)着替え・準備体操の時間

作業着や保護具(ヘルメット、安全帯など)の着用が義務付けられており、現場での更衣が事実上強制されている場合、その着替え時間は労働時間とみなされます。また、始業前の朝礼やラジオ体操への参加が義務(不参加だと不利益がある等)であれば、それも労働時間です。

2)手待時間(手待ち時間)

作業の手が空いている時間であっても、現場から離れることが許されず、指示があれば即座に作業を開始しなければならない状態(いわゆる手待時間)は、休憩時間ではなく労働時間とみなされます。

例:コンクリートミキサー車の到着待ち、資材搬入の待機時間など。

3)後片付け・報告書作成の時間

現場作業終了後の工具の片付け、清掃、日報の作成などの時間も、業務に付随する必須行為として労働時間に含まれます。

3. 固定残業代(定額残業代)制度の落とし穴

多くの建設会社で導入されている固定残業代制度ですが、運用を誤ると法的に無効となり、多額のバックペイ(未払い賃金の支払い)を命じられる事例が後を絶ちません。

制度が有効と認められるための要件(最高裁判例等より)

  1. 明確区分性:基本給部分と固定残業代部分が明確に分かれていること。「基本給30万円(残業代含む)」といったドンブリ勘定は無効となるリスクが高いです。
  2. 対価性:その手当が、時間外労働の対価として支払われている趣旨が雇用契約書等で明示されていること。
  3. 差額支払の合意・実態:固定残業時間を超過した分について、別途割増賃金を支払う旨の規定があり、実際に支払われていること。

「営業手当」や「現場手当」という名目で支給していても、それが残業代の代わりであると明記されていなければ、単なる手当とみなされ、さらにその手当を含めた基礎賃金をベースに残業代を計算し直さなければならなくなるという「二重の負担」が生じます。

4. 未払い残業代請求のリスクと消滅時効

労働基準法の改正により、20204月以降に発生した未払い賃金の**消滅時効は「3年」**に延長されました(当面の間)。

これにより、従業員から残業代請求を受けた場合、過去3年分に遡って支払いを求められることになります。対象となる従業員が複数名いれば、請求額は数百万円から数千万円に膨れ上がり、中小企業の経営を直撃しかねません。

また、裁判で「悪質」と判断された場合、未払い額と同額の「付加金」の支払いを命じられることもあります。

弁護士に相談するメリット

建設業の労務管理において、弁護士のサポートを受けることは、トラブルの予防と早期解決に直結します。

1. 就業規則・雇用契約書のリーガルチェック

自社の固定残業代規定が法的に有効か、36協定が正しく締結・届出されているかなどをチェックします。実態に即した規定に見直すことで、「働いた分に見合わない」という従業員の不満を解消しつつ、会社のリスクを低減させます。

2. 残業代請求への対応・交渉

退職した従業員から内容証明郵便で残業代を請求された場合、弁護士が代理人として交渉にあたります。

相手方の主張する労働時間(移動時間や休憩時間など)が法的に適正か、計算根拠に誤りがないかを精査し、過大な請求に対しては毅然と反論します。裁判になる前の示談解決を目指します。

3. 勤怠管理システムの導入支援

GPS打刻などが可能な勤怠管理システムの導入にあたり、法的観点から運用ルールのアドバイスを行います。客観的な記録を残すことは、従業員を守ると同時に、不当な請求から会社を守る最大の武器となります。

まとめ

建設業における労働時間管理は、2024年の上限規制適用により、新たなフェーズに入りました。「現場の常識」で通用していた長時間労働や曖昧な労働時間管理は、今や重大な経営リスクとなっています。

特に、移動時間や着替え時間の取り扱いは、個別の事情によって判断が分かれる難しい問題です。また、固定残業代制度も、契約書の記載ひとつで有効・無効が分かれます。

「うちは昔からこうだから」と放置せず、法改正に対応した労務管理体制へアップデートすることが、企業の持続的な成長には不可欠です。労働時間管理や残業代について不安がある経営者様は、建設業の法務に精通した弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。


関連動画のご案内

長瀬総合法律事務所では、企業法務や建設業界に関する法的知識をより深く理解するための動画をYouTubeで配信しています。建設業向け顧問弁護士サービスの詳細や、具体的なケーススタディも取り上げていますので、ぜひご視聴ください。 

【企業法務に関する動画のプレイリストはこちら】 

顧問サービスのご案内

契約書の確認から労務問題、トラブル対応まで、リスクを最小限に抑え、安心して事業を展開するためのサポートをご用意しております。

【長瀬総合の顧問サービスについてはこちら】

お問い合わせ

ご相談はお気軽に

【お問い合わせはこちら】


© 弁護士法人長瀬総合法律事務所 建設業法務専門サイト