2026/02/27 コラム
【建設業】暴力団排除条項の導入とコンプライアンス|反社会的勢力対応と契約解除のポイントを弁護士が解説
はじめに
建設業界は、その業務の性質上、古くから反社会的勢力(暴力団等)との接点が生じやすいとされてきました。現場周辺での不当な金銭要求や、下請業者としての入り込みなど、企業活動を脅かすリスクは依然として存在しています。
現代社会において、企業コンプライアンス(法令遵守)の重要性はかつてないほど高まっており、特に「反社会的勢力との関係遮断」は、企業の存続を左右する最重要課題の一つです。もし自社や取引先が反社会的勢力と関わりを持っていることが発覚すれば、公共工事の指名停止処分を受けるだけでなく、銀行取引の停止、社会的信用の失墜により、事実上の倒産に追い込まれる可能性すらあります。
このようなリスクを回避するために不可欠なのが、契約書への「暴力団排除条項(暴排条項)」の導入と、徹底したコンプライアンス体制の構築です。
本記事では、建設業における暴力団排除条項の重要性、反社会的勢力による不当要求への対処法、そして万が一トラブルに巻き込まれた際の実務対応について解説します。
暴力団排除とコンプライアンスに関するQ&A
Q1. 昔からの付き合いがある下請業者の役員が、実は暴力団と親密な関係にあるという噂を聞きました。確証はありませんが、契約を解除することはできますか?
契約書に適切な「暴力団排除条項」があり、かつ調査によって事実関係が裏付けられれば、契約解除が可能です。
単なる「噂」だけで契約を一方的に解除すると、逆に債務不履行や損害賠償請求を受けるリスクがあります。まずは、契約書に「役員等が反社会的勢力と密接な関係を有する場合」を解除事由とする条項(暴力団排除条項)が含まれているか確認してください。
その上で、信用調査会社への調査依頼や、警察(暴力追放運動推進センター)への照会、日経テレコンなどの記事検索を行い、客観的な証拠を集める必要があります。もし相手方が「密接交際者」に該当すると判断できる証拠が得られれば、暴排条項に基づき契約を解除できます。対応に迷う場合は、弁護士へ相談し、慎重に調査を進めることをお勧めします。
Q2. 建設現場で、地元の有力者を名乗る人物から「近隣対策費」「挨拶料」として金銭を要求されました。支払わないと工事を妨害すると言われています。どう対応すべきですか?
絶対に支払ってはいけません。要求に応じることは利益供与となり、自社も処分対象となる可能性があります。
正当な理由のない金銭要求は、恐喝や強要にあたる可能性があります。一度でも支払ってしまうと、「金を出せば解決する会社」と認識され、要求がエスカレートするだけでなく、都道府県の暴力団排除条例における「利益供与の禁止」に違反し、勧告や公表の対象となるリスクがあります。
対応策としては、以下の3点を徹底してください。
- 毅然と断る: 「会社の方針として、不当な要求には応じられません」と明確に伝える。
- 記録を残す: 相手の発言を録音し、日時・場所・内容を詳細に記録する。
- 警察・弁護士へ相談: 直ちに管轄の警察署や弁護士に連絡し、民事保全手続(面談強要禁止の仮処分など)や刑事告訴を検討する。
Q3. 公共工事ではなく、民間工事がメインの会社です。民間同士の契約でも、わざわざ「暴力団排除条項」を入れる必要がありますか?
はい、民間工事であっても必須です。リスク管理と企業の社会的責任の観点から不可欠です。
現在、全国の都道府県で暴力団排除条例が施行されており、事業者は契約締結時に、相手方が暴力団関係者でないことを確認するよう努める義務があります。
また、銀行取引約定書にも暴排条項が含まれており、もし自社が反社勢力と取引していることが発覚すれば、銀行から融資を引き揚げられる(期限の利益喪失)可能性があります。さらに、万が一相手方が反社勢力だと判明した際、暴排条項がなければ「無催告での即時解除」ができず、損害賠償を請求されるおそれもあります。自社を守るために、すべての契約に暴排条項を導入すべきです。
解説:建設業における反社会的勢力対策と暴排条項の実務
建設業は、その重層的な下請構造や、地域密着型の業務特性から、反社会的勢力が資金獲得活動(シノギ)の対象としやすい業界と言われています。ここでは、法的リスクを回避するための具体的な実務対応を解説します。
1. なぜ建設業で「暴力団排除」が重要なのか
建設業者が反社会的勢力と関係を持つことには、大きなリスクがあります。
① 公共工事からの排除(指名停止)
国土交通省や各自治体は、「排除措置要綱」を定めており、役員や使用人が暴力団員である場合や、社会的に非難されるべき関係を有している場合、公共工事の入札参加資格を停止(指名停止)します。一度でも認定されれば、長期間にわたり公共事業から締め出され、経営に致命的な打撃を与えます。
② 銀行取引の停止と倒産リスク
金融庁の監督指針および銀行協会の申し合わせにより、金融機関は反社会的勢力との取引を一切遮断しています。もし建設会社が反社勢力と密接な関係にあると認定されれば、預金口座の凍結や融資の停止が行われ、資金繰りがショートして倒産に至るケースもあります。
③ 暴力団排除条例によるペナルティ
各都道府県の条例では、暴力団員等に対して金品等の利益供与を行うことを禁止しています。これに違反した場合、公安委員会からの勧告や、社名の公表、場合によっては罰則(懲役や罰金)が科されることがあります。
2. 「暴力団排除条項(暴排条項)」の導入実務
すべての請負契約書、売買契約書、取引基本契約書に「暴力団排除条項」を導入することは、コンプライアンスの第一歩です。
暴排条項の役割
暴排条項には、主に以下の3つの効果があります。
- 表明保証: 契約時に、自らが反社会的勢力ではないことを相手方に宣言させる。
- 無催告解除: 後に相手方が反社会的勢力であると判明した場合、催告(是正の機会を与えること)なしに直ちに契約を解除できる。
- 損害賠償の予定: 解除によって生じた損害を相手方に請求できる一方で、相手方からの損害賠償請求は認めないとする。
建設業法標準請負契約約款の活用
中央建設業審議会が作成した「民間建設工事標準請負契約約款」にも、暴力団排除条項が整備されています(例:甲または乙が暴力団員、暴力団関係企業等に該当するときは、催告を要さず契約を解除できる)。
自社の契約書を見直し、以下の要素が含まれているか確認しましょう。
- 対象範囲の広さ: 「暴力団員」だけでなく「準構成員」「共生者」「密接交際者」まで含むか。
- 行為要件: 暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求行為も解除事由としているか。
- 下請負人への適用: 下請負人が反社勢力を利用した場合の解除や通報義務が含まれているか。
3. 取引開始時の反社チェック(スクリーニング)
契約書に条項を入れるだけでは不十分です。契約締結前に相手方を調査する「反社チェック」のプロセスを業務フローに組み込む必要があります。
- 公知情報の検索: 新聞記事データベース(日経テレコンなど)やWEB検索で、過去の事件や悪い噂がないか確認する。
- 専門機関への照会: 全国暴力追放運動推進センターや警察署に対し、必要に応じて相談・照会を行う。
- 独自調査: 商業登記簿を確認し、役員の変更履歴や本店の所在地(暴力団事務所と同じ住所でないか)を確認する。
特に、新規の取引先や、急に羽振りが良くなった業者、実態が不明確なブローカー的な業者については、入念な調査が必要です。
4. 現場での不当要求対応(民事介入暴力対策)
建設現場では、右翼団体を標榜する街宣活動や、地元住民を装った不当要求、機関誌の購読強要など、様々な「民事介入暴力」が発生するリスクがあります。
対応の基本原則(暴力団対策三ない運動+1)
- 恐れない
- 金を出さない
- 利用しない
- 交際しない
具体的な現場対応
現場監督や所長任せにせず、本社が主導して対応することが重要です。
- 相手の確認: 名刺をもらい、相手の素性(団体名、氏名)を確認する。
- 要求内容の特定: 具体的に何を要求しているのかを確認し、書面での提出を求める。
- 即答の回避: 「私の一存では決められない。持ち帰って検討する」と伝え、その場での合意や署名を避ける。
- 退去の要請: 業務に支障が出る場合は退去を求め、応じない場合は不退去罪として警察へ通報する。
5. 万が一、取引先が「黒」だと判明したら
工事の途中で下請業者が反社会的勢力である疑いが濃厚になった場合、極めて慎重な対応が求められます。
- 事実確認: 警察や暴追センターと連携し、確実な情報を得る。
- 契約解除の実行: 暴排条項に基づき、内容証明郵便で契約解除を通知する。
- 現場の安全確保: 解除に伴う報復や妨害活動に備え、警察による保護や警備体制を強化する。
- 行政庁への報告: 公共工事の場合など、発注機関への報告義務がある場合は速やかに報告する。隠蔽することは、発覚時の処分を重くするだけです。
弁護士に相談するメリット
反社会的勢力への対応は、一歩間違えると企業全体を危険に晒す高度な経営課題です。弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談いただくことで、以下のメリットが得られます。
1. 「暴力団排除条項」の整備
現在の契約書が最新の暴排条例や裁判例に対応しているかチェックし、抜け穴のない強固な条項に修正します。これにより、万が一の際の解除権行使を可能にします。
2. 専門的な調査と判断
取引先が反社会的勢力に該当するか否かの判断は、非常にデリケートです。「グレー」な業者に対する対応について、法的観点からリスク評価を行い、取引可否の助言を行います。
3. 不当要求に対する「窓口」としての対応
現場への不当要求が続く場合、弁護士が代理人として交渉窓口になります。法律の専門家が介入することで、相手方が手を引くケースが多く、従業員の安全と精神的負担を軽減できます。
まとめ
建設業における暴力団排除とコンプライアンス対策について、重要なポイントは以下の通りです。
- 契約書への条項導入: すべての契約に「暴力団排除条項」を入れ、無催告解除と損害賠償請求を可能にしておく。
- 事前のチェック: 新規取引時の反社チェックを徹底し、怪しい業者とは関係を持たない。
- 現場での毅然とした対応: 不当要求には絶対に応じず、組織的に対応する。
- 警察・弁護士との連携: リスクを感じたら、独断で動かず速やかに専門家へ相談する。
「反社とは知らなかった」という言い訳は、もはや社会的に通用しません。企業の存続と従業員の安全を守るために、日頃からコンプライアンス意識を高め、準備しておくことが経営者の責務です。
少しでも不安を感じる事案がございましたら、トラブルが拡大する前に、お早めに当事務所へご相談ください。貴社を守るための最善の策を講じます。
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