2026/02/25 コラム
下請契約の正しい締結と管理|元請が負う法的責任とトラブル回避のポイントを弁護士が解説
はじめに
建設業界は、元請業者(特定建設業者など)から一次下請、二次下請へと仕事が流れる重層的な請負構造によって成り立っています。この構造の中で、現場を円滑に動かし、かつ利益を確保するためには、元請業者と下請業者との間で適切な「下請契約」を締結し、管理することが極めて重要です。
しかし、実際の現場では、「昔からの付き合いだから」と口約束で工事を進めたり、見積書だけで発注したりするケースが依然として少なくありません。また、元請業者が優越的な地位を利用して不当な条件を押し付けたり、逆に下請業者の管理不足により労働災害や施工不良が発生したりと、下請契約にまつわるトラブルは後を絶ちません。
建設業法は、下請契約の適正化について非常に厳しいルールを定めています。これに違反すれば、行政処分の対象となるだけでなく、企業の社会的信用を失うことにもなりかねません。
本記事では、下請契約を締結する際の法的ルール、元請業者が負うべき指導・監督責任、そしてトラブルを未然に防ぐための契約管理のポイントについて解説します。
下請契約に関するQ&A
Q1. 急ぎの工事で契約書を作成する時間がありません。注文書と請書のやり取り、あるいはメールでの合意だけで工事を始めても問題ありませんか?
建設業法違反となるリスクが高いため、必ず契約書を作成するか、法的に要件を満たした注文書・請書を取り交わしてください。
建設業法第19条は、建設工事の請負契約において、工事内容や請負代金の額などの重要事項を書面に記載し、相互に交付することを義務付けています。
「注文書」と「請書」の交換でも契約は成立しますが、法第19条が定めるすべての法定記載事項(約15項目以上)が網羅され、双方が合意している内容が明確でなければなりません。単なる口頭での合意だけでは、同法違反として監督処分の対象になる可能性があります。また、後日の「言った言わない」のトラブルを防ぐためにも、基本契約書と個別契約書を締結することを推奨します。
Q2. 予算が厳しいため、下請業者に対して「この金額でやってくれないと次は頼めない」と強い要望を出しました。これは違法になりますか?
その行為は「不当に低い請負代金の禁止」や独占禁止法・下請法違反に抵触する可能性があります。
建設業法第19条の3では、注文者は自己の取引上の地位を不当に利用して、通常必要と認められる原価に満たない金額で請負契約を締結してはならないと定めています(不当に低い請負代金の禁止)。
また、「次は頼めない」といった発言は、優越的地位の濫用として公正取引委員会から指摘を受けるリスクがあります。指値発注(さしねはっちゅう)を行う場合でも、その金額が適正な積算に基づいているか、下請業者との十分な協議を経ているかが重要です。
Q3. 二次下請業者が現場で事故を起こしました。元請業者である当社は、直接契約していない二次下請の事故について責任を負うのでしょうか?
はい、元請業者は「安全配慮義務」や「統括管理義務」に基づき、法的責任を問われる可能性があります。
労働安全衛生法や建設業法において、元請業者は現場全体の安全衛生管理を統括する義務を負っています。直接の雇用関係がなくても、実質的な指揮命令関係や現場管理の状況によっては、民法上の不法行為責任(使用者責任など)や安全配慮義務違反として、多額の損害賠償を請求されるケースが判例でも見られます。
したがって、「下請に任せているから関係ない」という態度は法的に通用しません。
解説:下請契約のリスク管理と実務対応
建設工事における下請契約は、単なる「仕事の発注」ではなく、品質、安全、コンプライアンスを担保するための重要な法的文書です。ここでは、契約締結前から工事完了までに元請業者が注意すべきポイントを解説します。
1. 建設業法が求める「契約書面化」の徹底
建設業法第19条は、契約の紛争を予防するために、必ず書面で契約を締結することを義務付けています。これは元請・下請の関係だけでなく、二次下請、三次下請すべての段階で適用されます。
契約書に記載すべき法定事項(主なもの)
契約書には以下の事項を具体的に記載する必要があります。
- 工事の内容及び請負代金の額
- 工事着手の時期及び工事完成の時期
- 請負代金の全部または一部の前金払・出来形部分払の定め
- 工事の変更、工期の変更に関する定め
- 天災その他不可抗力による損害の負担
- 物価変動に基づく請負代金または工事内容の変更
- 第三者への損害賠償金の負担
- 注文者が資材を提供する場合の内容と方法
- 検査の時期及び方法、引渡しの時期
- 完成後の支払時期
- 契約不適合責任(瑕疵担保責任)の内容
- 契約に関する紛争の解決方法
電子契約の活用
近年では、建設業法等の改正により、電子契約サービスの利用も認められています(建設業法第19条第3項)。ただし、相手方の承諾を得ることや、改ざん防止措置などの技術的基準を満たしていることが条件です。印紙税の節約や管理コストの削減につながるため、導入が進んでいます。
2. 禁止される「不適正な契約」の具体例
元請業者が下請契約を締結する際、以下のような行為は建設業法で厳しく禁止されています。
① 一括下請負(丸投げ)の禁止(法第22条)
請け負った工事の全部または主たる部分を、一括して第三者に請け負わせることは、原則として禁止されています(公共工事では完全禁止、民間工事では発注者の書面承諾があれば例外的に可)。
「現場監督を置かず、施工管理もすべて下請任せ」という状態は、実質的な丸投げとみなされるリスクが高く、営業停止処分の対象となります。
② 不当に低い請負代金(法第19条の3)
前述のQ2の通り、下請業者の利益を著しく害するような低価格での発注は禁止です。
③ 資材購入の強制(法第19条の4)
正当な理由なく、指定する資材業者から資材を購入させたり、特定の製品を使用するよう強制したりすることは禁止されています。これにより下請業者の利益を害してはいけません。
④ やり直し工事の不当な費用負担
元請や発注者の指示ミス、あるいは不可抗力による損害について、その費用を一方的に下請業者に負担させる契約条項は、片務的(へんむてき)な契約として無効となる可能性があります。
3. 下請業者の選定と社会保険加入の確認
適正な施工体制を構築するためには、適切な下請業者の選定が不可欠です。
社会保険加入の義務化
国土交通省の方針により、社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険)に未加入の建設業者を下請負人とすることは、原則として禁止される方向へ進んでいます。元請業者は、下請契約締結時に、下請業者が適切な保険に加入しているかを確認し、未加入の場合は加入指導を行う必要があります。
建設キャリアアップシステム(CCUS)
CCUSの導入により、技能者の資格や就業履歴が可視化されています。CCUS登録事業者を優先的に選定することは、施工品質の担保だけでなく、企業のコンプライアンス姿勢を示す上でも重要です。
4. 元請業者の指導監督義務(法第24条の6)
元請業者は、下請業者に対して、施工に関して法令遵守を指導し、是正させる義務を負っています。
- 是正指導: 下請業者が施工手順を守っていない、安全対策が不十分であるといった場合、直ちに是正を指示しなければなりません。
- 法令違反の通報: 下請業者が是正指示に従わない場合、特定建設業者(元請)は行政庁へ通報する義務があります。
これは、「現場に顔を出さない」「電話だけで指示する」という管理体制では果たせない義務です。施工体制台帳を作成し、実際に現場で監督を行う実効的な体制が求められます。
弁護士に相談するメリット
建設業の下請契約管理は、法律の改正も頻繁にあり、自社だけで完全に対応するのは困難です。弁護士に相談・依頼することで、以下のメリットが得られます。
1. 法的効力のある契約書の作成・リーガルチェック
「自社のひな形が古いままになっている」「ネットで拾った契約書を使っている」という企業様は少なくありません。弁護士が、最新の法改正(民法改正、建設業法改正など)に対応し、かつ自社のリスクを最小限に抑える有利な条項を盛り込んだ契約書を作成・修正します。
2. 建設業法違反のリスク診断
日常的に行っている発注業務や支払いサイトが、知らず知らずのうちに法令違反になっていないか、プロの目で診断します。「公取委の調査が入った」「行政指導を受けた」といった事態になる前に、業務フローを改善できます。
3. 事故・トラブル発生時の迅速な対応
万が一、下請業者が現場放棄をしたり、労働災害が発生したりした場合、初動対応が遅れると損害が拡大します。顧問弁護士がいれば、直ちに現場対応や相手方との交渉、証拠保全について指示を仰ぐことができ、会社を守ることができます。
4. 不当な請求への対応
下請業者から「追加工事代金」として法外な請求を受けたり、元請としての責任を超えた要求をされたりした場合、弁護士が代理人として交渉し、適正な解決を図ります。
まとめ
建設工事における下請契約の管理において、重要なポイントは以下の通りです。
- 「書面化」は絶対条件: どんなに小規模な工事でも、法定記載事項を満たした契約書(または注文書・請書)を交わすこと。
- 「丸投げ」と「買いたたき」はNG: 一括下請負や不当に低い請負代金は、厳しい処分の対象となる。
- 実質的な管理: 元請業者は、下請業者の施工品質、安全管理、労務環境について指導監督する義務がある。
- 支払いの適正化: 支払期日や現金比率など、下請業者保護のルールを遵守する。
「現場が回ればそれでいい」という考え方は、現代の建設業界では通用しません。コンプライアンスを守ることは、結果として無用な紛争を避け、会社の利益と信用を守ることにつながります。
契約書の整備や、下請業者とのトラブル対応について不安がある場合は、建設業法務に強い弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。貴社の業務実態に合わせた、実践的で効果的な法的サポートを提供いたします。
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