コラム

2026/02/20 コラム

建設工事における請負契約の中途解約・解除のリスクとは?損害賠償や出来高精算の注意点を弁護士が解説

はじめに

建設業界において、工事請負契約の「中途解約」や「契約解除」は、もっとも深刻なトラブルの一つです。

「下請業者の工期が大幅に遅れているため、契約を打ち切りたい」
「施主(発注者)から一方的に工事の中止と契約解除を通告された」
「資金繰りの悪化により、工事をこれ以上続けられない」

このような事態に直面した際、感情的に契約を破棄したり、現場を放棄したりすることは、法的に極めて高いリスクを伴います。建設工事の請負契約は、民法や建設業法によって規律されており、契約の解除には厳格な要件と手続きが求められるからです。対応を誤れば、多額の損害賠償請求を受けたり、既に施工した分の代金(出来高)さえ回収できなくなったりする可能性があります。

本記事では、建設工事における請負契約の中途解約・契約解除に関する法的リスク、出来高の精算方法、そしてトラブルを最小限に抑えるための対処法について解説します。

元請業者、下請業者、それぞれの立場における「解除権」の行使とリスクマネジメントについて、実務的な観点から紐解いていきましょう。 

建設工事の契約解除に関するQ&A

Q1. 下請業者の工事の進みが非常に遅く、このままでは全体の工期に間に合いません。すぐに契約を解除して、別の業者に切り替えることはできますか?

直ちに解除できるとは限りません。「履行遅滞」を理由とする解除には手順が必要です。

工事の遅れ(履行遅滞)を理由に契約を解除する場合、原則として、相当の期間を定めて工事を進めるよう「催告(さいこく)」を行う必要があります。催告をしたにもかかわらず、その期間内に履行がない場合に初めて解除が可能となります(民法541条)。

ただし、契約書に「工期を遵守しない場合は催告なしに即時解除できる」といった特約がある場合や、物理的に工期内の完成が不可能であることが明らかな場合(定期行為など)は、催告なしに解除できる可能性があります(民法542条)。

注意点として、単に「遅い」という主観的な理由だけで一方的に解除すると、逆に不当な契約破棄とみなされ、下請業者から損害賠償を請求されるリスクがあります。進捗状況や是正指示の記録を確実に残しておくことが重要です。

Q2. 施主(発注者)の都合により、工事の途中で一方的に「契約解除」を告げられました。まだ工事は完成していませんが、損害賠償や逸失利益を請求することはできますか?

はい、請求可能です。施主はいつでも契約を解除できますが、請負人に生じた損害を賠償しなければなりません。

民法641条により、注文者(施主)は、仕事が完成しない間は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができます。この場合の「損害」には、既に発生した実費(材料費や人件費)だけでなく、工事が完成していれば得られたはずの利益(逸失利益)も含まれるというのが判例の考え方です。

したがって、建設業者としては、これまでにかかった費用に加え、契約履行によって得られる予定だった粗利益分についても請求を行うことが可能です。ただし、その金額を立証する責任は建設業者側にあります。

Q3. 契約書を作成せず、口約束(口頭契約)で工事を進めていましたが、トラブルになり解除したいと考えています。契約書がない場合でも法的な解除は可能ですか?

口頭契約でも契約は成立しているため、民法の規定に基づき解除は可能です。しかし、条件の証明が困難になるリスクがあります。

建設業法第19条では契約書の作成が義務付けられていますが、私法上、口頭でも請負契約は有効に成立します。したがって、相手方の債務不履行(遅延や瑕疵など)があれば、民法に基づいて解除することは可能です。

しかし、契約書がない場合、「いつまでに完成させる約束だったか(工期)」「どのような仕様で合意していたか」といった前提事実について「言った言わない」の水掛け論になりやすく、債務不履行を立証するハードルが高くなります。このような場合、契約解除の正当性を巡って泥沼の紛争に発展する可能性が高いため、弁護士へ相談することをお勧めします。

解説:建設工事における契約解除の法的リスクと実務対応

建設工事の請負契約を中途解約(解除)する場合、それが「合意による解除」なのか、「法定解除(債務不履行)」なのか、あるいは「注文者による任意解除」なのかによって、法的な扱いとリスクが大きく異なります。

1. 請負契約の「解除」とは? 3つのパターン

建設業の実務において、契約関係を終了させる主なパターンは以下の3つです。

合意解除(話し合いによる解除)

当事者双方(元請と下請、または施主と元請)が話し合い、合意の上で契約を終了させる方法です。

もっともリスクが低い方法ですが、精算条件(出来高の支払い、資材の引き取り、損害賠償の有無など)について明確に取り決め、必ず「合意解約書」などの書面を残す必要があります。

債務不履行による解除(法定解除)

相手方が契約上の義務を果たさない(債務不履行)場合に、一方的な意思表示によって契約を解除する方法です。

  • 履行遅滞: 工事が進まない、着工しない。
  • 履行不能: 倒産や火災などで工事の継続が不可能になった。
  • 契約不適合(瑕疵): 施工内容に重大な欠陥があり、修補できない。

この場合、解除した側は相手方に対して損害賠償請求を行うことが可能です。一方で、解除された側は契約違反の責任を問われます。

注文者による任意解除(民法641条)

前述のQ2でも触れましたが、請負契約特有のルールとして、注文者(発注者)は、仕事の完成前であれば「いつでも」「理由を問わず」契約を解除できます。

これは、注文者が不要になった成果物を無理に完成させる必要がないという考えに基づきます。ただし、その代償として、請負人に生じた「損害」を賠償しなければなりません。

2. 「中途解約」におけるリスク:損害賠償請求

契約解除において大きなリスクは、やはり金銭的な問題、すなわち損害賠償です。

損害賠償の範囲

不当な理由で契約を一方的に破棄した場合、あるいは債務不履行により契約を解除された場合、相手方が被った損害を賠償する必要があります。

  • 追加費用: 解除によって別の業者を手配するためにかかった増額分。
  • 遅延損害金: 工期が遅れたことによる違約金や実損。
  • 逸失利益: 工事が予定通り行われていれば得られたはずの利益。

特に注意すべきは、元請業者が下請業者を切り替える際のリスクです。十分な法的根拠(催告や証拠)なしに「仕事が遅いから帰れ」と現場から排除した場合、逆に「受領拒否」や「契約違反」として、下請業者から請負代金全額や損害賠償を請求される裁判例も少なくありません。

3. 「出来高」の算定と精算トラブル

建設工事が途中で終了した場合、そこまでに行った工事(既施工部分)の対価をどう支払うかが最大の実務的争点となります。これを「出来高精算」といいます。

民法634条(注文者が受ける利益の割合)

改正民法(20204月施行)により、工事が未完成のまま契約が終了した場合でも、以下の要件を満たせば、請負人は既に行われた工事の対価を請求できることが明文化されました(民法634条)。

  1. 注文者が既施工部分の給付によって利益を受けること
  2. その利益の割合に応じて報酬を請求できる

つまり、「工事は完成していないから1円も払わない」という主張は、原則として通りません。作りかけの建物であっても、後を引き継ぐ業者がそれを利用できるのであれば、その価値(出来高)に応じた支払い義務が生じます。

出来高算定の難しさ

法的に請求権があるとしても、「いくらが適正な出来高か」を算定するのは非常に困難です。

  • 進捗率の認識違い:50%は終わっている」と主張する業者に対し、発注者は「手直しが必要だから30%の価値しかない」と主張するケース。
  • 単価の争い: 見積書の単価と、実際に投入したコストの乖離。

こうしたトラブルを防ぐためには、日々の「工事日報」や「施工写真」、現場での「打ち合わせ議事録」を詳細に残し、客観的に進捗状況を証明できるようにしておくことが重要です。

4. 契約解除通知書の重要性

口頭で「もう来なくていい」「契約はやめる」と伝えるだけでは、後日「言っていない」「一方的だ」という争いになります。

契約解除を行う際は、必ず以下の事項を記載した書面(内容証明郵便が望ましい)を送付すべきです。

  • 解除の法的根拠(契約書第条、または民法第条)
  • 解除の原因となる事実(○○工事の遅延、是正勧告の無視など)
  • 精算の申入れ(出来高の確認・検査の日程など)
  • 損害賠償請求の予告

特に、将来の訴訟を見据えた場合、この通知書が「いつ、どのような理由で解除の意思表示をしたか」を証明する決定的な証拠となります。

5. 「違法な下請け切り」とならないために(建設業法上の注意点)

元請業者が下請契約を解除する場合、建設業法上のルールも遵守する必要があります。

不当に低い請負代金での契約や、やり直し工事の費用負担を一方的に押し付ける行為、そして正当な理由のない一方的な注文取消しは、建設業法違反(不当な義務の課税、信義誠実義務違反など)として、監督処分や勧告の対象となる可能性があります。

特に、契約解除に伴い、下請業者が現場に持ち込んだ資材や道具を勝手に処分したり、使用したりすることは、民事上の不法行為(器物損壊や不当利得)になるだけでなく、窃盗や横領といった刑事事件に発展するリスクすらあります。契約解除後であっても、残置物の処理には適正な手続き(引取請求や供託など)が必要です。

弁護士に相談するメリット

建設工事の請負契約解除は、単に「契約を終わらせる」だけでなく、その後の金銭精算や損害賠償までを見据えた高度な法的判断が求められます。建設業法務に強い弁護士に相談することで、以下のようなメリットが得られます。

1. 解除の可否とリスクの正確な判断

「今の状況で契約解除ができるか」「解除した場合にどれくらいの損害賠償リスクがあるか」を、契約書や民法の規定、過去の裁判例に基づいて診断します。感情的な判断による泥沼化を未然に防ぐことができます。

2. 内容証明郵便による解除通知の作成

法的効力を持たせ、かつ相手方に心理的なプレッシャーを与えることができる「解除通知書」を弁護士名で作成・送付します。これにより、相手方が真剣に対応する可能性が高まり、早期解決につながりやすくなります。

3. 出来高精算と損害賠償の適正な算出

工事の進捗状況や契約内容に基づき、法的に正当な出来高金額や損害賠償額を算出します。相手方から過大な請求を受けた場合でも、その根拠を精査し、不当な請求を拒絶するための反論を行います。

4. 代理人としての交渉と訴訟対応

当事者同士では感情的になりがちな交渉を、弁護士が代理人として引き受けます。話し合いがまとまらない場合は、調停や訴訟といった法的手続きへ移行し、依頼者の利益を守ります。

まとめ

建設工事における請負契約の中途解約・解除は、以下のポイントを押さえて慎重に行う必要があります。

  • 解除の理由を明確にする: 履行遅滞、債務不履行、合意解除など、どの法的根拠に基づく解除かを整理する。
  • 証拠を残す: 工事の遅れや不備を示す写真、日報、是正指示書、議事録などを保存する。
  • 手続きを踏む: 履行遅滞の場合は「催告」を行うなど、民法や契約書に定められた手順を遵守する。
  • 出来高精算の準備: 既施工部分の価値を客観的に証明できる資料を整える。
  • 損害賠償リスクを考慮する: 一方的な解除は損害賠償請求を受ける可能性があることを理解する。

建設業の契約トラブルは、対応が遅れれば遅れるほど、現場の混乱や金銭的被害が拡大します。「契約を解除したい」「解除された」という事態が発生した際は、自己判断で行動する前に、まずは建設業法務の専門家である弁護士にご相談ください。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、建設業者様からの契約解除、請負代金回収、損害賠償請求に関するご相談を数多く承っております。貴社の利益を最大化し、リスクを最小限に抑えるための最適な解決策をご提案いたします。


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