コラム

2026/03/16 コラム

建設現場の足場基準と墜落防止措置|2024年改正・罰則と安全帯(墜落制止用器具)の義務

はじめに

建設業における労働災害死亡者数のうち、約4割を占めるのが「墜落・転落」による事故です。高所作業が日常的に行われる建設現場において、足場の不備や安全帯(墜落制止用器具)の未使用は、文字通り「命取り」となります。

こうした状況を受け、国は労働安全衛生規則を度々改正し、規制を強化してきました。特に、202310月および20244月に施行された改正では、足場の点検や設置基準について重要な変更が行われています。これらのルールを知らずに工事を進めると、労働基準監督署からの是正勧告や処罰の対象となるだけでなく、万が一事故が発生した際に、会社が負う損害賠償責任が重くなります。

本記事では、建設業の経営者や現場責任者に向けて、最新の法令に基づく足場の安全基準、墜落制止用器具の義務、そして違反時の罰則について解説します。 

Q&A

足場と安全帯に関する法的疑問

Q1. 2024年の改正で「一側(ひとかわ)足場」が使えなくなったというのは本当ですか?

完全に禁止されたわけではありませんが、使用できる範囲が大幅に制限されました。

2024年(令和6年)41日の労働安全衛生規則改正により、「幅が1メートル以上の箇所」において足場を使用する場合は、原則として「本足場(二側足場)」を使用しなければならないこととされました。

一側足場(建地が片側のみの足場)は、本足場に比べて揺れやすく転落リスクが高いため、敷地が狭いなどのやむを得ない事情がない限り、安全性の高い本足場を選択する義務があります。

Q2. 足場の点検について、新しく義務化されたことはありますか?

はい、点検者の「指名」と「記録」が厳格化されました。

2023年(令和5年)101日より、事業者は足場の点検を行う際、あらかじめ点検者を「指名」しなければならなくなりました。

また、点検記録には、その指名された点検者の氏名を記載し、結果とともに保存する必要があります。単に「誰かが点検した」では不十分であり、責任の所在を明確にすることが求められています。

Q3. まだ「胴ベルト型」の安全帯を使用しても法的に問題ありませんか?

高さや作業内容によりますが、原則として「フルハーネス型」が義務です。

202212日以降、旧規格の「安全帯」は使用禁止となり、新規格の「墜落制止用器具」への移行が完了しました。

建設業において、高さ5メートル(一般的な建設作業では6.75メートル)を超える箇所では、「フルハーネス型」の使用が義務付けられています。低い場所での作業など限定的な条件下でのみ胴ベルト型の使用が認められますが、現場の安全基準として「全面フルハーネス化」を採用する元請企業も増えています。

解説

法改正に対応した足場基準と墜落防止措置

1. 墜落・転落災害の現状と企業の法的責任

建設現場での墜落事故が発生した場合、企業は「労働安全衛生法違反」としての刑事責任(懲役や罰金)と、被災者に対する民事上の「損害賠償責任」を負います。

特に、足場の不備(手すりの不設置、作業床の隙間など)や、親綱の未設置などが原因の場合、企業側の「安全配慮義務違反」は免れられず、賠償額は数千万円から億単位に上ることもあります。

また、公共工事の指名停止処分や、報道による社会的信用の失墜など、経営へのダメージは計り知れません。

2. 足場に関する最新の法改正ポイント

近年の改正は、より具体的かつ厳格な運用を求めています。現場管理において以下の点を再確認してください。

1)本足場使用の原則化(20244月施行)

これまで、狭小地などの住宅現場では一側足場が多く使われてきましたが、転落事故防止のため規制が強化されました。

  • ルール:足場を設置する箇所の幅が1メートル以上ある場合は、原則として本足場(二側足場)を使用する。
  • 例外:つり足場を使用する場合や、障害物があり本足場の設置が困難な場合などは例外とされますが、その場合でも可能な限り安全な措置(手すりの設置等)が求められます。

2)点検者の指名と記録の保存(202310月施行)

足場の組立て・変更時や、悪天候後の点検について、以下の対応が義務化されています。

  • 点検者の指名:その日の点検担当者が誰であるかを、書面や朝礼などで明確に指名する。
  • 記録の保存:点検結果とともに「点検者の氏名」を記録し、足場を使用する期間中(または工事終了まで)保存する。

3)足場の組立て等作業主任者の選任

高さ5メートル以上の構造の足場の組立て、解体、変更の作業を行う際は、「足場の組立て等作業主任者」を選任し、その者の指揮下で作業を行う必要があります。これは以前からの規定ですが、未選任のまま作業を行い事故になるケースが依然として多いため、注意が必要です。

3. 「安全帯」から「墜落制止用器具」へ:完全義務化の現状

法改正により、用語が「安全帯」から「墜落制止用器具」へ変更され、より高い安全性能が求められています。

1)フルハーネス型の原則化

建設業においては、以下の基準でフルハーネス型の使用が義務付けられています。

  • 高さ6.75メートル(建設業)を超える場所:フルハーネス型が必須。
  • 高さ2メートル以上かつ作業床がない場所:フルハーネス型が原則(高さ6.75メートル以下なら胴ベルト型も可)。

多くのゼネコンや現場では、高さに関わらず「フルハーネス型」の使用をルール化しています。

2)使用可能重量(体重+装備品)の確認

新規格の墜落制止用器具には、使用可能な最大重量(100kg85kgなど)が定められています。作業員の体重に腰道具やフルハーネス自体の重さを加えた総重量が、器具の規格内に収まっているか確認する必要があります。

4. 違反時の罰則と送検事例

労働安全衛生法に違反した場合、以下のような罰則が科される可能性があります。

罰則の内容

  • 6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(安衛法第119条など)。
  • 法人に対する罰金刑(両罰規定)。

送検事例

  • 足場の作業床に開口部があるにもかかわらず、手すりや蓋などの墜落防止措置を講じなかったとして、現場代理人と法人を書類送検。
  • 高さ2メートル以上の箇所で作業床を設けられないにもかかわらず、労働者に墜落制止用器具を使用させなかったとして書類送検。

これらは事故が起きなくても、労働基準監督署の立入調査(臨検)で発覚すれば処罰の対象となります。事故が起きれば、業務上過失致死傷罪(5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)にも問われ、より重い責任となります。

5. 元請業者の統括管理義務

下請業者の労働者が足場から墜落した場合でも、元請業者の責任が問われます。

元請業者は、特定元方事業者として以下の義務を負います。

  • 足場等の設備が法令基準を満たしているかの確認。
  • 関係請負人(下請)に対する法令遵守の指導。
  • 悪天候時の作業中止の指示など。

「下請に任せていた」という言い訳は通用しません。元請業者が主導して安全な足場計画を策定し、点検状況を監督することが不可欠です。

弁護士に相談するメリット

建設現場の安全基準は技術的かつ専門的ですが、弁護士は法的観点から以下のようなサポートを提供できます。

1. 安全管理体制のリーガルチェック

「自社の足場点検記録簿は法改正に対応できているか」「下請業者との契約で安全責任の所在を明確にできているか」など、現在の運用体制を法的視点で診断し、不備を解消します。

2. 労災事故発生時の初動対応と刑事弁護

重大事故が発生した場合、警察や労働基準監督署の捜査が入ります。弁護士は、事故直後から法的アドバイスを行い、取調べへの対応や、会社側の過失の有無に関する証拠保全をサポートします。これにより、不当に重い刑事処分や行政処分を回避できる可能性があります。

3. 安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求への対応

被災者側から高額な損害賠償請求を受けた際、会社側の安全対策が適切であったかどうか(過失の有無や相殺事由)を主張・立証します。過去の裁判例に基づき、適正な賠償額での解決を目指します。

まとめ

足場の安全基準や墜落制止用器具の義務化は、建設現場における「最低限のルール」です。

2024年の法改正により、一側足場の使用が制限され、本足場の使用が原則化されたことは、コストよりも安全を優先すべきという社会の強い要請の表れです。

経営者としては、「多少コストがかかっても安全な足場を組む」ことが、結果として事故を防ぎ、会社を守る最良の経営判断となります。

現場の安全管理体制に不安がある場合や、万が一の事故への備えを強化したい場合は、建設業の法務に強い弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。

貴社の状況に合わせた実践的なアドバイスを提供し、安全で持続可能な事業運営をサポートいたします。


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